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親でも先生でもない「評価する立場ではないおとな」とのちょっとした繋がりを生徒たちに

この春からNHK学園で始まった気軽な進路相談の場「あすなろカフェ」。その運営に協力いただいているのが若者の自立と社会参加の応援をする認定NPO法人育て上げネットの井村良英さんです。若者支援歴20年以上。内閣府の若者支援事業のアドバイザーも務める井村さんにNHK学園広報の野村がお話をうかがいました。

井村さんお顔写真

<井村 良英さん>

認定NPO法人育て上げネット執行役員・キャリアコンサルタント、内閣府令和3年度「子供・若者支援地域ネットワーク強化推進事業」及び「子ども・若者総合相談センター強化推進事業」におけるアドバイザー

目的は、居場所づくり・関係づくり

野村:まだ始まったばかりの「あすなろカフェ」ですが、いかがですか。
井村さん:担任の先生から聞いたり、置いてあったチラシを見たりして、ふらりと来てくれる生徒さんがいて、嬉しいですね。予約もできますが、気軽に来てもらえる場にしたいので、始めて早々にしては手ごたえを感じています。
野村:「カフェ」とは言え、このコロナ禍では、一緒にコーヒーを飲むのは難しいですね。
井村さん:本当は、ロビーの近くとか、もっと生徒たちがたくさん通るところで、「ちょっとコーヒー飲んで行かない?」と声を掛けられるといいんですけれどもね。
野村:まずは多くの生徒に来てもらうことが大事ということですか。
井村さん:新学年が始まって、新入生はもちろん、2・3年生でもクラスが変わって、人間関係に変化が生じる時期ですよね。特に通信制高校だと、毎日登校するわけではないから、最初のうちは、学校に来たけれども誰とも話をしないで帰路に就く、ということもあると思うんです。そんなときに、「ここでコーヒーを飲みながら人と話をした」ということがあれば、その繋がりが、次の登校のときの心のよりどころになるかもしれない、と思っています。悩みがあるときに、その存在を思い出して、足を運んでくれるかもしれません。
野村:あすなろカフェは、「気負わずに進路について話をする場」という位置づけと理解していたのですが、いわゆる「校内カフェ」の活動と根本は一緒で、「居場所づくり」でもあるのですね。
井村さん:履歴書の書き方指導や面接指導や進路決定のための相談というのは、方向性が定まって初めて踏み出せる段階ですよね。その前の段階として、まだ方向性が定まっていない状態のときに利用する場として、あすなろカフェを位置付けています。

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「評価する立場ではないおとな」と話す大切さ

野村:これまで、生徒からはどんな相談がありましたか。
井村さん:自分のやりたいことが学べる学部やその学部がある大学の調べ方がわからない、という生徒さん、男性が苦手だけれど専門学校の面接があるのでどうにかしたいという女の子、自分でよく調べてはいるけれど「相談できる人がいない」とやって来た1年生もいました。もちろん、先生方や親御さんは相談に乗ったり、有益な情報を探して提供してくれたりしていると思うんです。そんな中で私たちが関わる意味は、「評価する立場ではないおとな」と話をする機会、接点を持ってもらう、ということにあると思います。
野村:わかります。昨年、生徒の居場所づくりを考えるにあたり、生徒たちに意見を聞く場を持ったのです。オンラインで行ったのですが、外部の方も含め、私のように教員ではないおとなが何人か参加して生徒とフラットな立場で話に参加しました。最後に、「参加してみてどうだった?」と尋ねたら、「楽しかった!」という声がことのほか多くて、みんな本当に充実した顔をしていたのです。おとなと同列に扱われて、同じ立場で話をするという経験が彼らにあんないい顔をさせたのだと思います。それに、いろいろなおとなに出会うことはその数だけの生き方に出会うことになるわけですものね。
井村さん:進路決定って自分がしたいことで本当に自活していけるのだろうかとか、「親はどう思うか」などまだ見ぬ未来のことをいろんな角度から自分なりに初めて考える機会なので、慎重になりすぎてしまうという側面があると思います。3月に高校を卒業したら、4月からは進路が決まっていなければならない、というプレッシャーもありますよね。そこで苦しんで、何も考えられなくなってしまっている生徒さんには、ギャップイヤーの話をしました。欧米には、大学への入学前や在学中、卒業後就職するまでなどの時期に、猶予期間を自分のために作って、自分のやりたいことに取り組み、視野を広げる人がたくさんいるよ、と。
野村:なるほど。親は常識にとらわれてしまって、頭では理解していてもなかなかそういう声掛けはできないかも知れません。

困ったときに相談先として思い出してほしい

野村:「進路について、一人で迷わないように。卒業後、“孤独”にならないために。」これはあすなろカフェのキャッチフレーズです。どういう意味が込められているのでしょう。
井村さん:今、日本のひきこもり人口は100万人以上といわれています。内閣府が2019年に発表した調査結果によれば、40~64歳で、自宅に半年以上閉じこもっている「ひきこもり」が、全国で推計61万3千人。ひきこもりの高齢化、長期化が明らかになりました。これは、私たちが活動の中で肌身で感じていることです。私たちのNPO法人に相談にいらっしゃる方は、30代前後が最も多い。20歳前後の就職や進学でうまくいかなかったとすると、10年近くが経過してしまっているのです。「もっと早めに相談してもらえたら」という思いから、高校生のうちに私たちの存在を知ってもらう機会を作る活動を開始しました。この頃は、10代で相談に来てくれる例が徐々に増えてきて、活動が功を奏していると感じます。
野村:あすなろカフェで出会った生徒が卒業後の進路でうまくいかなくなったときに、育て上げネットに相談に行く、というイメージですか。
井村さん:はい。私たちのところ以外でもいいのですが(笑)。順風満帆のときは母校へ顔を出しやすいかもしれませんが、自分がうまくいっていないと思ってしまっているときは顔が出しづらいかもしれません。そんなときに、あすなろカフェで出会った私たちのことを思いだしてくれればと思います。実際に、2、3回しか会ったことがない子が高校卒業後、進んだ道で何かあったときに相談に来てくれたりするんです。自分から関係を切りたいと思ったら、切ることができる。それくらいの間柄のほうがそういう時には相談しやすいのではないでしょうか。ウィークタイズというか、ゆるいつながりだからこそ果たせる役割というのがあるのではないかと思っています。

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一人ひとりの生徒に向き合うNHK学園の教員たち

野村:井村さんは、さまざまな高校に関わっていらっしゃると思いますが、NHK学園の特徴というのはありますか。
井村さん:生徒さんはどこでも大きくは変わりません。NHK学園は、とにかく先生方がすばらしいですね。私がよく知っているのは進路指導室の担当の皆さんですが、一人ひとりの生徒さんに本当によく向き合っていると思います。手厚いですね。通信制高校で登校日数が限られているにもかかわらず、担任の先生のすすめでやってきた生徒も多いし、通りかかる先生たちのことも生徒がよく知っているので、先生方がきちんと生徒との関係を築いていることが伝わってきます。
野村:ありがとうございます。今後も、井村さんたちの持つノウハウを教えていただきながら、生徒に寄り添う「あすなろカフェ」を作っていきたいと思います。


NHK学園では、あすなろカフェを足掛かりに、具体的な進路が見えてきた生徒には、履歴書の書き方や面接の練習など実践的な指導を行う「あすなろワークショップ」も開いていきます。オンラインでの参加も可能です。今後も、井村さんたちの持つノウハウを教えていただきながら、進路指導を通じて、生徒の可能性を広げていきます!

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