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読み書きに困難のある学習障害をネット学習で乗り越え、将来は「自己理解」をキーワードに学習障害のある子供たちの教育に関わりたい。

読み書きに困難がある学習障害、ディスレクシアを知っていますか。
高校2年生でディスレクシアでの診断を受けるも、大学進学を希望して、NHK学園に転入学した卒業生の会沢冬翔さん。将来は、学習障害のある子どもたちの教育に関わりたいという会沢さんに、NHK学園高等学校広報の野村がお話を聞きました。

ディスレクシア
ディスレクシアとは、知的に問題はないものの読み書きの能力に著しい困難を持つ症状を言います。充分な教育の機会があり、視覚・聴覚の器官の異常が無いにも関わらず症状が現れた場合に称します。(中略)日本でも人口の5%から8%はいます。欧米では10%から15%と言われています。(認定NPO法人EDGEサイトより)

英語に苦戦した中学時代

野村:どのようなきっかけでNHK学園に転入学されたのですか。
会沢さん:公立の全日制高校に通っていた2年生の時に胃腸炎を患いました。その後2か月間腹痛が続き、高校を休みました。その間、自宅で学習している様子を傍らで見ていた母が「どうもおかしい」と感じて、夏に心療内科を受診したのが、自分がディスレクシアであると知ったきっかけです。
中学生の時から、英語の勉強を見てくれていた母は、その苦戦ぶりに、違和感を感じていたようです。僕自身は、「ほかのみんなはもっと努力しているんだろう。自分は努力が足りないからできないんだ」と思っていました。
英語は、イレギュラーな読み方が多いので、ディスレクシアにはハードルの高い言語です。英語圏でディスレクシアの人の比率が高いのはそのせいだと言われています。

NHK学園の配慮に安心して転校

転校を決意したのは、当時通っていた学校では、授業や試験で学習障害(LD)への配慮が認められなかったからです。主治医から校長、担任、英語担当の先生に話をしてもらいましたが、「高校の入試に合格できたのだから、普段の学習も他の生徒と同じ対応を続ける」というのが学校の判断でした。でも、英語の点数が悪くても他の科目でカバーできる入試と、卒業に必要な単位を取ることは全く別です。英語の単位が取れなければ卒業はできない。当時は大学に進学して、世界史の勉強をしたいと考えていたので、その学校に通い続ける選択肢はないと感じました。大検も考えましたが、高校卒業資格が欲しかったので、転校することにしたのです。
NHK学園の学校説明会に参加し、自分の症状に対して配慮をしてもらえるか聞いたところ、「配慮していますよ」と当然のごとく軽く言ってくれたことに驚くとともに安心しました。
ほかの通信制高校も検討しましたが、気になる大学の指定校推薦があったこともあり、NHK学園に入学することに決めました。

人により異なるディスレクシアの症状

野村:会沢さんのディスレクシアの症状を教えてください。
会沢さん:読むことはできますが、スピードは一般の人と比べて遅いと思います。漢字は読めるのですが、書こうとするとぼんやりとした印象しか浮かばず、ディテールが全く思い出せない感覚です。何が読めて何が読めないかは、同じディスレクシアでも随分異なり、漢字を読むのが難しい人もいれば、カタカナを読むのが困難な人もいます。ディスレクシアの友人たちと食事に行くときは、イタリア料理だと、メニューがカタカナばかりだから、僕がメニューを読むことになるし、中華料理に行けば、漢字ばかりなので僕は友人にメニューを読んでもらいます。
また、紙で見るよりは、ディスプレイで見る方が負担が少ないです。紙だと照明の色によって見え方が大きく左右されます。僕は、ピンク地に青い字が見やすい。でも、普通のプリントを反転させたような黒地に白い文字が読みやすいという人もいるんです。ディスプレイだと自分の見やすいようにカスタマイズできるのが大きな利点です。

DOIT-Japanに参加して

こうした情報も、同じ障害を持つ友人のネットワークも、高校2年生の終わり頃にDOIT-Japan(https://doit-japan.org/)に参加したことがきっかけで、得ることができました。DOITは、障害や病気がある生徒や学生を対象としたプログラムです。夏休みに4泊5日の研修に参加して、自分のできること、できないことを知ったり、他の人がどう障害に向き合ってきたかを聞いたり、すべてが面白い体験でした。パソコンの設定を工夫することで文字が読みやすくなるなど、ITの活用方法も知りました。DOITで出会った方々とは今でも交流が続いていますし、これからも関わっていきたいと思っています。

野村:NHK学園入学後、印象に残っているのはどんなことですか。
会沢さん:最初は紙のリポートを提出するコースに入ったのですが、僕の状態には、明らかにネット学習のコースのほうが合っているという先生からの勧めを受けて、途中でコース変更をしました。ネット学習なら、リポートの提出や学習状況の管理まで全てオンラインでできるので、格段に学習の負担が減りました。方法次第で負担を軽くする方法はたくさんあると痛感しました。
ネット学習のおかげで、自分に無理なく、時間を自由に使って高校の学習することができたので、DOIT-Japanをはじめとした、さまざまな外部活動に参加することができました。それが、自分を理解し、自分の世界を広げることにつながったと思います。
行事で印象に残っているのは、転入した年のバレーボール大会で自分のクラスが優勝したことです。自分のように2年生の9月から転校してきた生徒で構成される新しいクラスだったので、このバレーボール大会で初めて会ったクラスメイトも多かったのですが、みんなで団結して、息の合った連係ができたのが楽しかったです。

大学PC受験への道

もう一つ、高校時代の印象的な出来事があります。大学入試センター試験受験の際に、法律で義務付けられた「合理的配慮」の許可が下り、細かい点の打合せのために、担任の中島先生と一緒に、お茶の水大学に行った時のことです。
紙の問題用紙を拡大すると、とても量が多く、ぶ厚くなってしまって、とても扱いづらいので、パソコンを使った受験が認められました。いろいろな人から話を聞くと、それまで、聴覚障害や視覚障害のある人には認められたケースはありましたが、LDで認められるケースは極めて少ないらしいとのことでした。
打合せの場にでは、15人ぐらいだったか、かなりの人数がいる中で、問題の読み上げの速度はこれくらいでいいかとか、細かいことまで確認しました。

親子の距離感

今、大学で勉強する傍ら、僕自身も通っていたLDの生徒を対象とした英語塾でアルバイトをしています。
保護者と本人との関係を客観的に見ていて感じるのは、親子の距離感の大切さです。振り返れば、うちの母は、情報は与えてくれるけれども、考えを押し付けたり、口を出したりすることが一切ありません。いつも自分で決めさせてくれました。
親は毎日近くにいるから子どもの成長に気づきにくいのかと思いますが、塾で週一で見ていると子どもたちの変化がわかります。親がネガティブになると子どももネガティブになってしまうので、子どもをもっと信じて、本人の人生を本人に決めさせてあげられるといいな、と思います。

自己理解が次への原動力

DOITに参加した当時、ぼくはディスレクシアの診断は出ているけれど、自己理解のできていない状況でした。自己理解のきっかけをもらい、その必要性をDOITのプログラムを通じて知りました。子どものころからサッカーをやっていて、部活など同年代の仲間と一緒にいることが多かったことも、他者と比較して自分を知るいい機会になったと思います。発達障害当事者の会などに参加したことがあるのですが、自己理解の差が大きいと感じますね。自己理解ができていないと悲観的になってしまって、愚痴を言うだけになってしまう。でも、自己理解が進めば、「自分にはこういうことが必要だ」とか「自分にはこれが合っているんじゃないか」という次につながる選択ができると思います。

DOITでの体験を通じて、LDの子供たちの教育に携わりたいと思うようになりました。
現在はLD研究で有名な星槎大学に入学し、教育学を学んでいます。既存の制度内でできていないことを実現するためには、教員という枠を超えて何かをする必要があるのではないか、と考えています。具体的な形は模索中です。LDの子どもたちやいろいろな人たちと関わりながら、「自分だからできるかたち」を考えている最中です。

会沢さんと中島先生1

会沢さんの元担任 中島里佳先生より(上の写真右)
会沢君の第一印象は、「行動力のある生徒」。自分の状況をしっかりと説明し、自分が何を目指しているのか、そのために何が必要かをしっかりと言葉で伝える力を持っていました。
私自身も、彼の担任をしたことで、「多様な生徒の進路を支えられるようになりたい」と感じるようになり、社会福祉士や、国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得しました。資格の勉強する中で、生徒たちには、狭い高校の世界だけでなく、広く社会に関心を持ち、接するような機会が必要なのだと痛感しました。
会沢君の高校生活は、多くの人と少しだけ違っていて、多くの努力が必要だったのだと思います。そのためにたくさんの努力をして、さまざまなものを動かし、よりよい学びの環境を整えた会沢君。こうした経験を活かして、多様な子どもたちの夢の実現を支えながら、自身の夢もかなえようとしている姿は素晴らしいと思います。そして、いつかどこかで、会沢君と一緒に仕事ができる日が来たら、こんなに嬉しいことはないな…なんて思っています。


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