みんな違って、みんないい! 本当に自分のペースで学べる学校って?!
「同調圧力のない学校」を、私は初めて経験した。
NHK学園では毎年、生徒向けに発行している冊子『学園通信』の企画で作文コンクールを実施しています。この一文は生徒のMさんが作文の中で書いてくれたもの。「同調圧力」とは、みんなが同じようなことをしなければならないという雰囲気のことです。学校生活を送る中で、そのような空気を感じたことがある、あるいは感じているという人は結構多いのではないでしょうか。
「成績や行動を常にクラスメイトと比べられている気がする。」
「自分だけ特別なことをして目立つのは嫌だ。また、それを許してくれないような空気を何となく感じる。」
「みんなと話題をあわせて同じようなことをしていないと仲間外れになってしまうかもしれない。」
Mさんも小中学生時代、おそらくそのような空気を感じながら学校に通っていたのだと思います。ところがNHK学園に入学してみるとそのような同調圧力はまったく感じなかったというのです。
人は一人一人違った個性を持っています。全員が同じ型にはめられて常に他の人の顔色をうかがいながら日々を過ごしていれば息苦しくなるのは当たり前ですよね。NHK学園は通信制の学校です。他者と比較する、あるいは比較されることなく自分のペースで学べるというのは大きな特長の一つと言えるでしょう。今回はこの「自分のペースで学ぶ」ということについて考えてみたいと思います。
世田谷区立桜丘中学校の改革
今、教育界ではある一つの公立中学校が大きな注目を集めています。それは東京の世田谷区立桜丘中学校。以前は荒れていたこともある中学だったようですが、ある改革を行った結果、現在は不登校生の数も減り、学校がとても落ち着いて、難関といわれる高校への合格者も多く輩出する学校に生まれ変わったというのです。
さて、その驚くべき改革とはいったいどのようなものだったのでしょう。いくつかあるのですが、もっとも象徴的なのは「校則の全廃」。一切の校則をなくしたのです。
たった一つのルールは法律を破らないこと。基本的にそれ以外はすべて自由です。髪型や服装はもちろん自由、学校に来て授業に出席しないのもOK。廊下には机やいすなどが置かれ、なんとハンモックまで吊り下げられています。中には休み時間だけでなく授業中に廊下のハンモックで揺られている生徒も。それでも先生から注意を受けることはありません。
校長先生曰く「授業に出たくない、授業がつまらないというのはその先生の教え方が良くないからだよね。そういう授業には出なくてもいいよ(教員の私から言わせればなんて恐ろしいことを言う校長先生なんだ、ということになりますが)。」それに対して生徒の方が「校長先生がそんなこと言っちゃだめだよ。」……学校の中ではそんなやり取りもあるそうです。
まさに、「自分のペースで学ぶ」。生徒の自主性にすべてがゆだねられているということですね。校則をなくすなんていうことをしたらますます学校が荒れてしまうのではないか。みんな勉強をしなくなってしまうのではないか。そう考えてしまいがちですが、生徒の自主性を信じることで、この改革は大成功を収めているのです。
校則がなければ生徒一人一人が自分がするべきこと、そしてしてはいけないことを考えて行動しなければなりませんし、自分の行動に対して責任も生まれるでしょう。まずはそれを理解して学校生活を送っているこの中学校の生徒のみなさんが素晴らしいと思います。
また、校長先生のそのような方針を受け入れ、一丸となって学校を変えていった先生方の努力も相当なものがあったのだと思います。
そして何よりも、生徒と学校の間に信頼関係が築けているからこそ、この改革はうまくいったのでしょうね。この中学校では他にも様々な改革が行われているようです。興味を持った方は、ぜひ詳しく調べてみてください。
一人ひとりが自分のペースで学ぶために
さて、NHK学園にはさまざまな年代、そして実に個性的な生徒が数多く在籍していて、そのことは私たちの誇りでもあります。
職を持って働いている人、自分の将来の夢の実現のために活動している人、進学のために受験勉強をしている人、まずは高校卒業の資格を得るためにがんばっている人。それぞれがそれぞれに、自分の目標を達成するために、日本中、いや、世界中の多様な環境の中で学んでいます。
年齢やNHK学園に入った目的も多様ですから、そもそも同調圧力が生じにくい環境です。生活スタイルも目的も異なるのだからクラスメイトと比較しても意味がない、自ずとそれぞれが自分のぺースで学ぶことになります。
「自分のペースで学べる」というこのNHK学園のメリットをさらに発展・充実させ、生徒のみなさんの学習環境を一人一人に合ったものにしていく、少し難しい言葉で言えば「個別最適化」を実現していくことは、ちょっと大げさな表現かもしれませんが、さまざまな生徒を受け入れているNHK学園の使命と言えるかもしれません。
NHK学園では、これまでも特徴ある複数のコースを設置したり、履修科目を選べる単位制を導入したり、数学や英語に苦手意識を持っている人に向けて「数学Ⅰ入門」や「コミュニケーション英語基礎」といった学びなおしの科目を設置したりするといったことを実施してきました。
また、NHKの協力を得て高校講座のストリーミング配信(インターネット上でいつでも番組を視聴できる)を実現させたり、それまで紙の郵送しかなかったレポートをインターネットで取り組めるようにしたり、生徒のみなさんが学習しやすい環境を世の中の状況の変化に合わせて整えてきました。
今はまだ、一部を除いて文部科学省から正式に認められてはいませんが、インターネットを使ったリモートのスクーリングなども、近い将来には実現するかもしれませんし、そのための環境整備、準備はすでに初めています。
「自分のペースで学ぶ」というのは言い換えれば「学ぶ人自身が計画的に学習に取り組む」ということでもあります。言うのは簡単ですが、実行するのは易しいことではありません。生徒たちが自主的に学ぶモチベーションを保てるように、私たちも生徒の自主性を信じながら、さまざまな工夫や働きかけをしています。
学園祭で出会ったあるクラスの写真
11月にNHK学園東京本校で学園祭がありました。今年は新型コロナウイルスのことがあり、企画は展示やクラブの発表などが中心、その模様をインターネットで配信するという今までにない学園祭となりました。
そんな中、あるクラスが「間違い探し」という企画を行っていました。2枚の写真を並べて違うところを見つけるというもの。たとえば、左の写真では前を向いて友達としゃべっていた生徒が右の写真では机に突っ伏して寝ている、といったたぐいのものです。
どの写真にも生き生きとした生徒の様子が写っており、私も楽しく見ていったのですが、最後の最後、出口の近くに1枚の写真とメッセージが。その写真に写っていたのは教室で思い切り両手を広げ、思い思いの表情でポーズをとっているクラスのみんな。
バッチリカメラ目線の人もいれば、わざとカメラから視線を外している人もいます。んっ?!中には違うポーズをとっている人も。よく見ると生徒に交じって担任の先生も写っていますね。
そして写真の下には「みんな違って、みんないい!」というメッセージが。
まさにNHK学園を象徴する素敵な写真とメッセージだと思いませんか?