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夢の実現と学問の追求 両立のためにNHK学園スタンダードコースへ入学。目標に向かって今日という日・時間を大切に過ごしたい。

重黒木さんは今年NHK学園高等学校スタンダードコースに入学した1年次生です。このたび、NHK宮崎放送局の番組「てげビビ!」の「わけもん短歌」に応募した作品が優秀作品に選ばれました。「わけもん短歌」は宮崎の“わけもん”=若い世代の短歌を毎月紹介するコーナー。歌人の大口玲子さんが応募作品から優秀作品を選びます。2023年4月のこのコーナーで優秀作品に選ばれた重黒木さんに短歌について聞きました。

「わけもん短歌」優秀作品に選ばれた短歌
休日はすべてが色を纏い出す蛇口から出る水はしろがね

ー「わけもん短歌」優秀作品おめでとうございます!まずは選ばれたときの、率直な感想を聞かせてくれますか?

重黒木さん:選ばれたことは嬉しいですが、選ばれたことにより、私を支えてくださっている方々が喜んでくださったことが、一番嬉しいです。私が生きるために詠んだ歌が、他の方の生活を豊かにすることほど、嬉しいことはありません。

ー短歌をいつ頃からつくり始めたのですか?

重黒木さん:2021年の秋頃です。

 ー短歌を始めようと思った、きっかけを教えてください。

重黒木さん:私の住んでいる宮崎県は、歌人若山牧水の生誕地で、短歌界の第一線で活躍されている方も多く在住している地で、短歌県といっても過言ではないほどです。
短歌を始めたころの私は、本を読み漁ったり、生まれたときから親交のあった先生に俳句を習ったりと、鬱病の中、救いとなった文学にのめり込んでいました。そんな時に、宮崎日日新聞に俵万智さんが選者を務める「俵万智短歌賞」の入選作が掲載されました。
私も軽い気持ちで作歌し、応募しましたが、作品は落選。
受賞作をみたとき、「このような短歌が受賞するなんて……私の歌の方がよかった」という根拠のない自信と反抗心を抱いて、今思えば短絡的ですが、本格的に作歌を始めました。
始めてみるとおもしろく短歌にのめり込みました。そんな日々の中で、いつしか根拠のない自信も消え去り、「短歌」という世界を心から楽しむようになりました。そのおかげでしょうか。一年後の第六回俵万智短歌賞では、学生部門の特選に入選しました。

心が揺れ動いて生まれた言葉を通して、先人や他者の心と繋がることができる短歌の魅力

ーどんな時に歌を作り、どんな風に作るのか、コツや自分のやり方、気をつけている点などあれば教えてほしいです。

重黒木さん:歌の作り方は、歌人によって種々さまざまですが、私は主に実景を元につくることが多いです。散歩をしたり、ひとりで旅をしたり、自然の中に身を置くようにしています。
しかし短歌はいつ生まれるか油断がなりません。入浴中のときもあれば、眠りに落ちる直前に生まれることもあります。心が揺れ動いて生まれた言葉を逃がさないよう、気をつけて生活をしています。
神経を張ることなので、疲れも伴ないますが、結果として、その姿勢が世界の新たな側面を気づかせてくれます。短歌を推敲する時は、辞書や歳時記を傍らに置き、鉛筆を持って黙々と机に向かいます。

※歳時記:一年中の行事やおりおりの風物などを、四季もしくは月順に列挙し、季語を分類して解説や例句を示した書

ー「言葉」に常に真摯に向き合う意識や姿勢が、大事なのですね。短歌のどんなところが好きですか?

重黒木さん:正直なところ自分でもまだよくわかっていませんが、いくつかの理由があります。
神代から続く形式を用いることで、連綿と続く文化の一部になっていると感じることができること。
そして「三十一文字」というきめごとがあるからこそ、その中に宇宙的な空間の広がりをも創造できること。そして短歌を通して、先人や他者の心と繋がることができること、などです。

ー重黒木さんが影響を受けた好きな歌人と、その理由を教えてください。

重黒木さん:若山牧水です。

「白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」

この歌は、小学校の教科書で読んだ時から印象に残っていました。愛情と孤独と素朴さが漂う彼の歌は、読み手を、世俗から離れた澄明な世界へ連れていき、短歌にしか作り出せない安らぎと共感で包んでくれます。また、牧水は、私とさまざまな方との縁をつないだ歌人でもあります。
牧水研究の第一人者・伊藤一彦先生は、私の短歌の師でもあり、かけがえのない存在です。先生からいただいた著書、岩波文庫・伊藤一彦編『若山牧水歌集』を開くと、歌を詠むことの楽しさをいつでも思い出させてもらえます。短歌だけではなく自然観にも影響を受けました。 

ー常に意識を世界に向けているということは、好奇心にあふれていて、日々いろいろなことに興味のアンテナをたてているのかなと感じます。短歌以外には、他に好きなことや、趣味はありますか?

重黒木さん:小説の創作、読書(主に文学・芸術)、美術全般・日本建築などの鑑賞、音楽(最も好きなミュージシャンはビートルズ)、ギター演奏、散歩、旅などです。

小説家、その先へ 枠を超えた本質の追求という夢のために

ー短歌というひとつの世界にとどまらず、重黒木さんの過ごす時間のすべてが創作につながっているのかもしれませんね。これからも短歌を極めていきたいのでしょうか。それとも他に何か将来の夢があるなら、その夢と、夢の実現に向けて意識していることを教えてください。

重黒木さん:将来の夢は「小説家」です。
さらに言えば「小説家」「歌人」「文学」といった枠を超え、さまざまなアプローチから本質を追求していきたいです。実現に向けて意識していることは“いついつまでに長編をかく” “文学賞を受賞する”といった大まかな目標からの逆算と、「明日死んでしまっても後悔がないように今日の生に努めたい」という姿勢です。

ー目標に向かって、今日という日・時間を精一杯大切にするという考え方は、とても大事ですね。

 

本質的な学問の追求と、夢との両立のため選んだNHK学園

ーNHK学園を選んだことには、どんな理由があったのでしょうか。

重黒木さん:受験勉強ではなく学問を、本質的な勉強をしたかったためと、自分自身が今、夢中になっている執筆活動などと、両立できるからです。

ー実際にNHK学園に入学して、いかがですか。

重黒木さん:まだ入学したてのため、明確な変化は感じられていませんが、日々の状態を振り返ると、NHK学園入学という選択は間違いではなかったと感じています。NHK学園という環境は整っているので、卒業するときに、満足しているか後悔しているかは私次第で……。

ー目標に向かってがんばってください。

お話を聞かせていただきありがとうございました。確固たる目的と理由があり、自分自身で時間をコントロールできるNHK学園スタンダードコースへの入学を選択された重黒木さん。学業と両立し、将来の夢に向け進んでいく姿を応援し、今後を見守っていきたいと思います。


重黒木さんの短歌の師である歌人・伊藤一彦さんからのメッセージ

重黒木さんと親交のある歌人の伊藤一彦さんからメッセージをいただきました。伊藤さんはNHK学園が開講している生涯学習通信講座「短歌講座」やNHK学園が主催する「短歌大会」にご協力いただいているNHK学園と大変深い関わりのある方です。

「十代の優れた男女に私はたくさん出会っています。『優れた』というのは、憧れをもって求める意志の強さ、他の人に対する繊細な心づかい、の二点を考えますが、彼らは鋭く確かな書き言葉をもっていることをさらに付けくわえたいと思います。そんな優れた十代の一人として、重黒木俊陽さんを思い浮かべます。初めて会ったのが夕刻の蕎麦屋さん、その偶然を大切にして私は重黒木さんとメールを交換したり、時に会ったりしています。

彼を知るたびに彼の学びの深さを思います。それは驚くほどです。そして、人は「学べば学ぶほど学びたくなる」ように、さらにNHK学園で幅広く学ぼうとしているのがさすがです。自宅での読書や学習だけでは片寄るかも知れないと思っているのでしょう。この世界と人間を知る『総合知』を目指しているのだと思います。

次の一首は宮崎日日新聞の短歌欄で第一席に推した重黒木さんの作品です。

夏草の古墳群から立ちのぼる息吹をわれは吸って吐きけり

芭蕉『夏草や』の句を踏まえた見事な一首でした。古墳にねむっている死者たちの魂が夏草を繁らせており、まさにそ『息吹』を自分のものとして吸って吐くという、時空の広がりのある歌でした。重黒木さんのさらなる学びが彼の豊かな感性と才能をどう発展させるか、大いに楽しみです。

NHK学園に学んでいる十代の皆さん、二十代以上の皆さん、今の学びを大切にしてそれぞれの『憧れ』をぜひ実現してください。実現しようと決意したことは、本人があきらめない限り、実現できるものだということを、先人の人生は教えているのです。」

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