薩摩藩の異年齢児教育「郷中教育」は鹿児島に深く根付いていた!

前回の「パーソンズ」の投稿では、オランダのイエナプランを紹介しました。海外の教育手法も画期的でしたね。さっそく、NHK学園の卒業生からの反応がありましたので紹介します。


「個人を尊重する風潮からか、最近は他者へ興味の無い子が多くなっているような気がします。自分の出来る事で他者を支え、自分の出来ない事は他者に支えてもらう。学校にそのような環境があることは素晴らしいことですよね。陸上競技部クラス、実現させることが良いですね!」
「部活後のサッカーなども多くの意図があったのですね。強みや弱みを知るのはレジリエンスの根幹なので本当に大切だよなぁーと最近頻繁に思います。」


彼らの言うように、イエナプランは自学自習をモットーとするNHK学園生に向いている教育なのかもしれませんね。卒業生が感じるのだから間違いないと思いました。

日本国内の縦割り教育

次は国内に目を向けます。実は国内にも縦割り教育が存在していました。身近なところで申し訳ないのですが、私の生まれ育った鹿児島の縦割り教育です。それは薩摩藩に伝わる郷中教育(ごじゅうきょういく、もしくはごちゅうきょういく)です。

郷中とは、方限(ほうぎり)と呼ばれる区割りを単位とする自治組織のことで、今でいえば町内会単位の自治会組織と考えればよいでしょう。当時、鹿児島の城下には数10戸を単位として、およそ30の郷中があったといわれています。そこでは、青少年を先輩(二才:にせ)と後輩(稚児:ちご)に分けて、勉学・武芸・山坂達者(やまさかたっしゃ、今でいう体育・スポーツ)などを通じて、先輩が後輩を指導することによって強い武士をつくろうとする組織でした。

郷中教育

稚児は年齢によってさらに、小稚児(こちご)と長稚児(おせちご)に分けられ、稚児のリーダーとして稚児頭(ちごがしら)がいました。また、二才のリーダーとして二才頭(にせがしら)がいて、二才と稚児の面倒をみました。
 
稚児と呼ばれる武士の子どもたちは、毎日早朝、郷中内の先生の家へ走っていって本読みを習い、家に帰ってくると朝食までそれぞれ本読みの復習をしたり家事を手伝ったりして過ごします。
 
朝食がすむと今度は、馬場と呼ばれる広場や神社の境内などに集って、馬追いや降参言わせ、相撲、旗とりなどの山坂達者によって身体を鍛えます。午後は、共に誘いあって、先輩や先生の家に集まり読み書きの復習(復習座元)をします。その後、稽古場へ行き夕方まで、剣(示現流)、槍、弓、馬術など、武芸の稽古を行ないました。

長稚児たちは、夕方から二才たちが集まっている家に行って、郷中の掟を復唱したり自分たちの生活を反省したりします(夜話の座元)。武士の子としてよくない行いがあれば二才たちから注意を受け、場合によっては厳しい罰を受けることもありました。
 
武士の子どもたちは、一日のほとんどを同じ年頃や少し年上の人たちと一緒に過ごしながら、心身を鍛え、躾・武芸を身につけ、勉学に勤しんだのです。年長者は年少者を指導すること、年少者は年長者を尊敬すること、負けるな、うそをつくな、弱い者をいじめるなということなどを、人として生きていくために最も必要なこととして教えました。
 
二才同志は、互いに戒めあい、修身の道に各々自重するとともに、二才頭を中心にして互いに熟議し、郷中に起る一切の問題を処理しました。二才たちの手でどうしても処理しかねる時には、長老を訪ねて適宜指導を仰ぎました。このように、郷中教育は、集団のなかでおこなわれ、教師のいない、異年齢によって行われた自治的な教育であったことを特徴としました。

現代にも連なる郷中教育の教え

私の幼少期には「あいご会」という組織がありました。住んでいる地域の小さなまとまりでした。おそらく、郷中教育の名残りでしょう。近所の子供たちが集まり、地域の行事やお祭りを手伝ったり、あいご会対抗のソフトボール大会に参加しました。

そこでは、先輩が後輩を指導する場面がたくさんありました。先輩から叱られたり、褒められたり、様々のことを教わりました。まるで兄弟のような関係性で、お互い切磋琢磨して成長できる場でもありました。そこで強烈に叩き込まれたのが、郷中の教えで有名な3つの言葉でした。


ひとつ、「負けるな」 (自分に負けるなという意味です。)
ひとつ、「嘘をつくな」
ひとつ、「弱い者をいじめるな」


この3つの言葉は、私の子供たちにも引継ぎました。今や盛田家の家訓のようなものです。「この3つを守れば社会で生きていけるんだよ。」と言って子育てをしてきました。

以上が国内に存在した「縦割り教育」です。

さて、次回は、イエナプランと郷中教育に共通した「縦割り教育」を研究することで、NHK学園高等学校の「教育内容をもっと見直そう」という大命題を振り返りたいと思います。私の担当する「パーソンズ」の具体的な検討事項は「試験の廃止」、「9月入学」、「レポート提出の自由化」の3つでした。今回の「縦割り教育」と併せて、実現できればと考えています。