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学校生活の中で出逢うウェルビーイングな瞬間

チーム「うぇる・び」のnote担当、河合良樹です。
NHK学園では、生徒一人ひとりの「その人らしさ」を育むことを大切にする教育をしています。
これは、NHK学園の自慢の一つではあるのですが、なかなか具体的なイメージを共有していただきづらいとこころです。今回は、NHK学園のあちこちで見られる、この「N学的ウェルビーイング」の実例を紹介していきます。

挨拶が「世界」を広げる

「学校生活の中で出会うウェルビーイングな瞬間ってどんなときだろう?」
そう考えたとき、私が最初に思い浮かべたのは、挨拶です。学校内で誰もが挨拶できる状態は、まさしくウェルビーイングを実現している状態です。なぜなら、挨拶は、相手の存在を認めていることを示す行為だと思うから。
そして、挨拶について考えるときに、私には忘れられない生徒との思い出があります。

昨年度、私は初めて担任を持ちました。1年生のクラスでした。年度当初は、私も生徒たちもお互い緊張した日々を過ごしていました。ある程度生徒とも打ち解けてきたある朝、私が担任している男子生徒の一人が廊下でイヤフォンをつけてうつむいていました。私が「おはよう!何してるの?」とうつむいている彼を覗き見るようにしながら挨拶すると、彼は少し驚きながら「おはようございます」と挨拶を返してくれました。
私にとっては彼との何気ない日常の一場面でしたが、後日、彼と三者面談をしたときに「僕は自分の殻に籠りがちなところがあって、気づいたらああやって一人になっちゃうときがあるのですが、先生が僕を殻から出してくれました」と少し照れながら話してくれました。彼はクラスのHR委員として活躍し、今年度も私の担任するクラスでHR委員をしてくれています。まだ1年(もうすぐ2年)しか経っていませんが、私と話しているときの彼はどこか安心した表情をしていて、休みの日に偶然すれ違ったときにも「先生!!」と声をかけてくれます。「おはよう!」の一言がきっかけでここまで関係性を築き上げられるのですね。

今年度担任しているクラスの生徒には、朝のホームルームの時間に挨拶について次のようなアンケートをしました。クラスのみんなが「挨拶」についてどのように考えているのかを教えてほしかったからです。

①あなたはどのようなときに「挨拶」をしますか。
※同様の状況でも「挨拶」をするときとしないときがある場合、その違いは何ですか。
②あなたはなぜ「挨拶」をしますか。
③あなたは「挨拶」をされたとき、どのような感覚になりますか。

さまざまな回答がありました。その中でも、挨拶をする理由としては、
「自分の存在を(その場において)相手に認識させるため。」
「私がここにいることを示すため。また、その人がそこにいることを認識していると伝えるため。挨拶をして返してもらえると自分はここにいるんだなと思えるから。」
「した方がもっと仲が深まると思うから。するとしないとならした方が絶対いいし、仲深まるというか相手も自分もお互い良い気分になると思う。」
のように自分の存在や相手の存在を認めるために挨拶をすると答えてくれた生徒が複数名いました。
そして、アンケートに答えてくれたほとんどの生徒が挨拶をされて「うれしい」と答えていました。さらには「この人とは少しでも関わりを持てていると感じる。」や「自分はここにいるんだなと思う。」のような挨拶をされることで自分の存在を相手から認めてもらえていることを感じられると答えてくれている生徒もいました。
 
 挨拶する理由については、「挨拶は日常生活で使うもの。」「特に理由はないが、気づいたらなるべく挨拶するように育ってた。」「文化だから。」という回答もありました。実際、私たちは挨拶を日常的に特に意識をせずにしていることが多いです。そんな自然の関わりであっても私たちは挨拶をされると嬉しくなります。ウェルビーイングとはどこか特別なところにあるものではなくて、私たちの日常卑近の中にあるのだと思います。

喜びの連鎖 ― あなたらしさが見つかると、自己肯定感が高まっていく!!

「N学的ウェルビーイング」とは何かを相談していたとき、「うぇる・び」のメンバーが次のように話していました。

「その人の強みや自分の得意分野を見つけることで、自己肯定感が高まっていき、自分に自信が持てるようになると思う。すでに見つかっている人は、それをさらに磨いていけたらといいと思う。」
「学校を自分がそこにいてもいいと思わせられる居場所にしたい。必ずしも集団である必要はないし、学校としては、居心地のいい安心できる場所や一人でも淡々と過ごせるような環境を提供できればいいと思う。」

この言葉を聞きながら、以前に彼女が私に教えてくれたある生徒とその担任のエピソードを思い出しました。

生徒のAさんは、自宅での学習は完璧でしたが、転学や休学の経験を重ねたことで、登校することに極度のプレッシャーを感じるようになっていました。
担任は、いつもAさんとメールでやり取りしていました。「Aさんは、いつもレポート提出が完璧で素晴らしいですね。ただ、単位の認定にはどうしても登校が必要になります。登校に対して不安に感じている要因は何かあるかな?」そんな問いかけから始め、不安の共有とそれを安心に変える工夫を一緒に考えていきました。
 NHK学園の前には通りを挟んで広い公園があります。あるとき、担任は「学校前の公園に来て、お話をするというのはできそうかな?」と提案しました。するとAさんは「それなら行けそうです」と返事しました。そこで、先生とAさんは、スクーリング(対面授業)のない日に、学校前の公園で待ち合わせをしました。当日、Aさんは、少しうつむきながらやってきました。先生は大喜びです。直接会うのはこの日が初めてだったので、まずはAさんの日ごろの生活の様子や趣味の話を聞きました。その後、ちょっと学校まで足を延ばしてみることになりました。
誰もいない教室に入ったAさんは、緊張で震えていました。それでも、Aさんにとって、教室に来られたということが、とても大きな成長です。
……その後、Aさんは、少しずつ少しずつ、学校に立ち入ることができるようになり、スクーリングにも参加できました。定期試験の受験は、何とも言えない張り詰めた空間で、これまで以上にハードルが高かったのですが、日にちを分けて少しずつ受けるなどの工夫をして突破することができました。そこからのAさんの成長は凄まじいものでした。学園祭などの行事にも積極的に参加できるようになったのです。
担任のちょっとした工夫をきっかけに、Aさんは飛躍を遂げ、進学を決めました。

集団生活を想像しやすい学校という場だからこそ、誰だって安心できる自分の居場所が欲しくなります。ただ、学校だからといって集団でいなければいけないというわけではない。たくさんの人がいる場所でも、一人で居たいときだってあります。でも、ずっと一人がいいわけでもない。私たちってそんなにシンプルじゃないですものね。このエピソードを聞いた私は、そう感じていました。
ウェルビーイングが一つに固定していない概念だからこそ、一人ひとりのウェルビーイング経験は多様です。次回は、就労体験を通した生徒たちのウェルビーイング経験をお伝えしたいと思います。


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